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電気工事の事故防止(その3)

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                       全日電工連(全日本電気工事業工業組合連合会)
                     「電気工事技術者のための事故防止ハンドブック」より                  

              目  次

3.事故を防ぐために行うこと

(1)社内教育

(2)チェックシートと携行カードの活用

(3)リスクアセスメント

(4)事故防止に必要な心構え

 

3.事故を防ぐために行うこと

1.では、さまざまなデータから見る事故の傾向を見てきました。それらは、ちょっとした不注意によって起こったり、非常に初歩的な誤りであったり、単なる勘違いや見落としであったりなど、自分たちにはあり得ないのではないかと思われるかもしれません。

しかし、実際には多く起きている事柄です。そして、起こした方の多くも、自分がそのような事故を起こすと予想して起こしたわけではないのです。それゆえ、誤結線・誤接続の事故を防ぐための対策が重要になってきます。

(1)社内教育

これら事故を防ぐための対応は個々に任せるのではなく、組織として取り組むべき課題です。事故は安全意識の低い職場で起きやすいものです。会社として、個々の作業者による確認作業の省略などが起きることがないよう、安全意識を熟成していく必要があります。

具体的には、新入社員からベテランまでも含めた効果的な安全教育の実施や、施工前の安全上の注意点の確認、施工後のチェック体制の確立、確認実施のためのルール作りなど、事故防止のための取組みを意識的に組織として定期的に行うことがあります。また、現場で行われる、KY(危険予知)活動や作業前に行われるTBM(ツールボックスミーティング)などに誤結線・誤接続に関する事故防止を上手に組み入れることもよいでしょう。

これら対策を行うにあたって、特にトップの事故防止に対する意識は非常に大切です。これらの取組みを下に任せておくだけでは、効果が薄れてしまうからです。

また、一人親方の場合でも、作業を行うチームとして現場の仲間とともに、積極的に事故防止に取り組む、相互確認の実施や安全上の情報交換を行う、事故を防ぐための他業種との綿密な意思疎通を図る、などが求められます。

(2)チェックシートと携行カードの活用

誤結線・誤接続を防ぐための確認作業ですが、これらもただ漫然と行うと効果が低いものになってしまいます。そのため、チェックすべき項目は何かをリストアップし、チェックシートのような形にしておくと、安全面でより効果の高い確認を行うことができます。

設備によっては、メーカーがそのようなチェックシートを準備している場合もあります。これらを無視して、誤接続事故を起こしてしまった事例もありますから、準備されたチェックシートを十分に活用すべきでしょう。

さらに進めて、普段の作業で見落としがちな確認事項や注意を携行できるサイズのカードにして、いつも持ち歩き、施工前や施工後の確認用に利用するなどの方法もあります(第3図)。

確認の習慣化を確立する方法として、このようなツールを有効に使うことができるでしょう。

 

              【第3図 誤結線・誤接続防止安全カード(例)】

(3)リスクアセスメント

誤結線・誤接続を防止するため、確認以外にできることはないでしょうか。

最近、労働災害防止の分野で提唱されているものに「リスクアセスメント」があります*。この手順や方法を上手に活用できるかもしれません。
*労働災害のリスクアセスメントの実施は、労働安全衛生法第 28条の2、労働安全衛生規制第 24条の 11において、事業者の努力義務となっています。

「リスクアセスメント」とは、行う作業で起きる事故のリスクを、その可能性、頻度と危険性によって分析し、評価をして、その情報を元に事故防止に役立てようとするものです。リスクアセスメントの手順は、以下のようになります。

①リスクの特定
 その作業に、どのような事故のリスクがあるかを特定します。

②リスクの見積り
 それぞれのリスクについて、重篤度、発生の可能性、頻度などから、その大きさを見積もります。

③リスクの評価(対策の優先度の設定、リスク低減対策の検討)
 リスクの見積りを基に、優先度を決め、リスク低減対策を検討します。

④リスク低減対策の実施

⑤リスク低減対策実施の結果を記録、見直し

対策の実施の結果を記録蓄積することにより、次のリスクアセスメント実施の参考にします。このように、P(計画)D(実施)C(評価)A(改善)のような、サイクルとして実施します(第4図)。

しかし、リスクアセスメントは(特に中小の)電気工事業の、誤結線・誤接続などを対象とするには、少々やりにくいことかもしれません。一つは多様な現場や作業が存在するため、リスクの特定が(例えば工場などの)ほかの作業に比べ難しいことがあります。

また、事故の頻度も、ある程度の数がないと実際にはなかなかわかりません。数百社レベルでは頻度がはっきりする事故の事象も、自分の会社の範囲だけではなかなか想定しづらいものと思われます。それゆえ、どのような事故を主に想定すべきか、対策をどう取るべきかが難しいものです。

しかし、1社では難しい事故事例の収集も、客観的な第三者が複数社から集めた情報をうまく活用することができます。この「事故防止ハンドブック」は、まさにそのようなことを想定して編集されています。事故事例のデータを基に、特に頻度が高く(金額ベースではありますが)重大事故に至った事例を紹介し、解説しています。

この中の事例から、特にご自身の仕事に近い作業と比較し、その中から事故防止の対策を考えることにより、非常に簡便なものではありますが、誤結線・誤接続に関するリスクアセスメントを行ったのと同じ効果が得られます。

(4)事故防止に必要な心構え

誤結線・誤接続などの事故を起こさないためには、対策と同時に各自の心構えも大切です。

実際に心に余裕がない焦りや、慣れた工事だからという慢心、だれかが責任を取ってくれると考える安易さなど、技術者としての心構えが足りないときに往々にして事故が起こるのです。

電気工事に関する自負心、責任感、誠実さなどの心構えは、事故防止を実施するために極めて重要です。このことを第5図で「もう一つのPDCA」という形で表現しました。

それぞれが、自分の仕事に誇りを持ち、「絶対に誤結線・誤接続を起こさない」という心構えでいることにより、必要な手順の遵守や確認を怠らないことを実施することを、より積極的に行うことができるでしょう。

 

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